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めぐる布市・出口を広げるプロジェクト2025レポート こども手しごとカフェ(神奈川県横浜市)

布の循環量を増やし、リユース品を活用する人を増やすために取り組む「めぐる布市」出口を広げるプロジェクトの3年目。今回ご紹介するのは、「こども手しごとカフェ」さんの活用事例です。

 

こども手しごとカフェは、2025年4月から「こども手しごと」という場を開いている団体です。料理・工作・手芸などのワークショップや、カードゲームなどができる場で、毎月第2日曜日に、たまプラーザ駅近くのたまプラーザ地域ケアプラザで開いています。ワークショップは事前申し込みや材料費が必要ですが、ゲームなどは無料で参加でき、出入り自由です。対象はおおむね小学3年生から中学生で、通常企画では毎月約20人が参加しています。

これまでのワークショップでは、おにぎりや焼きそば、ピザなどの料理や、バンダナ・虫よけスプレーなどの製作を行ってきました。夏休みの特別企画では、ミシンを使って服やエプロンの製作にも挑戦しました。

 

12月14日に活動を見学させていただきました。この日のワークショップは「ヒンメリを作ろう」。ヒンメリは北欧の伝統的な装飾品で、豊作、幸運、天からの恵み、家の繁栄などを願うお守りです。藁やストローを使い、八面体を作っていきます。

会場では8名のスタッフが念入りに準備し、参加者を迎えます。この日の参加者約20人は小学生の女の子ばかりでしたが、普段は男の子もいます。まずは全員が集まり、スタッフがヒンメリのことや作り方を説明。みんな驚くほど静かに一生懸命聞いていました。

 

スタッフがヒンメリの作り方を説明

 

ヒンメリ作りから始めるグループと、飾りを選ぶグループに分かれてスタート。ヒンメリ作りのテーブルでは、すぐに作り始める子もいれば、わからないようでキョロキョロしている子、途中で間違いに気付いて最初からやり直す子もいました。

説明のプリントも参考にしながらヒンメリ作りに挑戦

 

飾りを選んでいる子たちは、自分の好みの組み合わせを選ぶのに夢中。選び終わってヒンメリ作りの席が空くのを待つ間、ゲームが置かれたテーブルで遊ぶ子たちもいます。

この日はジェンガや、ペットボトルのキャップをバランスよく置く手作りゲームが置かれていました

 

完成させた子にはスタッフの方が声をかけ、作品の写真を撮影していました。「ここがかわいい!」「これを中に入れたんだね」などと褒められ、子どもたちもうれしそうでした。

 

また、継続して参加している数人の子は、何回かに分けて「マクラメバッグ」の製作を進めていました。この日は一人が完成を迎えていました。

 

完成間近のマクラメバッグ

これまでの活動では、布市の資材を活用し、刺繍糸を使ったミサンガやコースター、フェルトを使ったクリスマスツリー、布を使ったエプロンやパンツ、プルオーバーブラウスなどを作りました。

刺繍糸を使ってコースターづくり

 

こうした活動を行う「こども手しごとカフェ」を立ち上げたのは、代表の蒲田聖子さんです。

蒲田聖子さん

 

蒲田さんは普段、民生委員の中でも児童福祉に関することを専門的に担当する「主任児童委員」を務めています。他に、地域の小学校で学校と地域をつなぐ「学校・地域コーディネーター」を務めたり、発達障害を持つ子の療育に関わったりもしています。4人の子どもの母親でもあります。

 

蒲田さんは子どものころ、母親や、同居していた祖母と一緒に、普段から繕い物や編み物をしていました。高校生のころには、自分で制服の丈を直すこともあったそうです。

その後はそうしたことから遠ざかっていましたが、子どもが産まれてから子どもの服を作るようになりました。「おそろいができるので、うれしくなって、どんどん作って」と微笑む蒲田さん。

あざみ野にある複合施設「アートフォーラムあざみ野」のミシンを借りて製作することもありました。そのとき「こんなに設備が整っているのに、年配の方ばかり。ここで小学生と一緒に何か作ったらいいんじゃないか」と感じた蒲田さん。2023年の夏には、ママ友の子どもに声をかけて、一緒に服作りをしてみました。

 

そして、2024年に横浜市青葉区などが主催する講座「青葉みらいづくり大学校」に参加したことが、今の形で場を開くきっかけになりました。この講座は、地域活動で活躍する担い手の育成を目指すものです。ただ蒲田さんは講座の内容を詳しく知らず、主任児童委員に関する研修の一つだと「勘違い」して参加したのだそうです。

 

講座で『地域づくりで自分の計画を立てましょう』と言われて『あれ…?』と。ただ、そこでいろいろな方と知り合いになり、『自分の好きなことをやればいいんだよ』と言われたので、『それなら、子どもと一緒に何か作ったりすることかな』と思ったという蒲田さん。

企画の背景には、これまでのさまざまな活動で感じてきた問題意識もありました。

 

一つは「手しごと」の大切さです。

 

「子どもたちは昔と違って、脳は使っているけれど手は使っていません。ICT(情報通信技術)が進化し、タブレットを多く使用していることも影響していると思います。また、母親も働いている家庭が増え、おうちの仕事が軽視されるようになっているのではないかと感じます。家の環境を整えることは、心の成長にとっても大切だと思います」。

もう一つは「居場所」の必要性です。「こども手しごと」が開かれている日曜日は、基本的に学童保育や保育園が休みの日です。「親御さんが仕事をしていて、子どもだけで過ごしている子もいるのではないかと考えました」とのこと。

 

講座内で計画を立て、最終日に発表。必ず実行しなければならないわけではありませんでしたが、蒲田さんは「飽きっぽいので、気持ちが盛り上がっている今やらないと」と、計画の実現に向けて動き出しました。

中心となるスタッフは、ママ友や、これまでの地域活動で親しくなって仕事ぶりを信頼していた人に声をかけて集めました。年間の企画においては、パン職人やビーズ作家など、蒲田さんや中心メンバーとつながりのある人に講師を依頼した回もあります。また、青葉区が身近な地域課題の解決につながる取り組みのスタートを支援する「あおばスタート補助金」を受けられることになり、ミシンなどを購入しました。

 

そうして「こども手しごと」がスタート。会場には、居場所としての機能も持たせたいと、無料でゲームなどができるスペースを毎回設けています。社会性を養えるようカードゲームを置くなど、このスペースの内容にも工夫を凝らしています。

 

開催後には毎回、スタッフが集まって振り返りを行います。その中で、子どもたちへの接し方が話題になることも。中心メンバーの中には療育の専門家もいて、プロの視点を交えながら、よりよい方法をみんなで考えています。

例えば、子どもたちの中には作り方が分からず、誰かに聞くこともできずに戸惑う子もいます。蒲田さんは「他の子がやっているのをちらっと見て始める子もいます。最初は待って、手が止まっていても、その子のタイミングで始めてもらえればいいのではと思っています。最初の一歩は遅くても、ジャンプアップする子もいるのです。もちろん、最後まで動けないということはないようにしたいのですが」。

 

このように、こども手しごとでは「待つ」ことを大事にしていると蒲田さんはいいます。クリスマスツリー製作の回には、道具の順番待ちで手持ち無沙汰だった参加者の男の子が、フェルトを細かく切り刻んでいたことがありました。その子は最後に、ツリーにボンドをつけてそれを乗せ、雪が降ったようなふわふわと葉がついているような木にしたのです。蒲田さんは思わず「え、すごいねー!」と声をかけたといいます。

「家で自分の子どもがやっていたら『もったいないからやめなさい』と言うだろうと思いましたが、そのときは私が他のことで忙しかったこともあり、何も言わなかったのです。待っていたら何か生まれることもあるのだなと、感心しました。気持ちの余裕と物の余裕があると、意外と待てるのかなと感じました」。

クリスマスツリー作り

「待つ」を可能にする「物の余裕」を生み出すところには、「めぐる布市」の資材が貢献している部分があるようです。中心メンバーの一人が森ノオトの関係者と知り合いだったことから、「めぐる布市」や「出口を広げるプロジェクト」のことを知り、応募したそうです。

 

布市スタッフとの面談では「できるだけ多くの種類のものを入れてほしい」と希望していました。実際に届いたものを見ると、フェルトや刺しゅう糸、針など「本当にすごくたくさんの種類があった」といいます。

 

それらを使ってできあがったものには「一個として同じものがありません」と蒲田さん。例えばクリスマスツリーを製作したときも、色や飾りの選び方が一人ひとり違いました。「真似をしている子もいましたが、それも悪いことではありません。真似しながらも『あいつがああするならおれはこうする』とオリジナリティを出している子もいました。『面白いね、それ』と言うとすごく喜んでいたりして。決まっていないことをやるのは面白いですよね」。

 

さまざまな色や形のクリスマスツリー

家庭でここまでの種類をそろえ、その中から選べるようにするのはなかなか難しいことです。「こういった場でそれを経験することで、『自分が好きなのはこういう感じなんだ』とわかります。そうすると、なんとなく自分が強くなったような感じがするし、自分が自分でいいと思えて、自分のことが好きになります。さらに、好きなことを周りにそのまま認めてもらえると、自己肯定感にもつながるのではないかと感じています」。

さまざまな布の中から、自分の好きなものを選んで服を作る

蒲田さんは主任児童委員や学校・地域コーディネーターの活動をする中で、学校を休みがちになっている子や、再び休まず通い始めた子を見てきました。そうした中で「居場所」や「好きなこと」の大切さを感じているそうです。

「子どもたちがつまずきを感じたときに、居場所や好きなこと、『これをやっていると落ち着くな』ということがあったらいいなと思います。そして、薄いつながりがたくさんあるといいのではないかと。こども手しごとが『来ていいんだよ』と言える場であり続けられたらいいなと思います」。

羊毛フェルトのボールをつくる

昨年12月からは「おとな手しごと」という活動も始め、その中でも布市の資材を活用しています。初回は、メンバーの有志がレッスンバッグや上履き入れ、体操着入れといった入学グッズを製作。できあがったものは社会福祉協議会に寄付し、必要な人の手に渡ることになっています。

布市の資材の布は小さいものが多かったため、別途購入したデニム生地と組み合わせて製作。持ち手のテープも布市の資材

今後はこうした「おとな手しごと」の活動も拡大していきたいと蒲田さんたちは考えています。子どもたちがワークショップで製作したものを見た保護者から「私もやってみたい」という声も届いています。

 

また蒲田さんには、今後こども手しごとを「誰でも来ていい」と言える場所にしたいという思いもあります。ただ、それは簡単なことではないとも考えています。「定型発達の子だけでも、特性を持っている子だけでもなく、誰でも来ていい居場所とするには、人手が必要だったり、参加人数を減らしたりする必要があります。まずは他の団体と連携する形がいいのかななどと、仕組みを考えているところです」。

 

スポーツや勉強が得意な子どもは、学校でも活躍の場がイメージしやすいですが、手しごとの得意な子、好きな子もいるはずです。こども手しごとの場では、そういった子が好きなことをしながら周りとつながることができます。そして、自分の好きなものを知ることで、「自分」の存在に気付き、他者との関わりにおいても、自分を大切にできることにつながるのではないかと感じました。手しごとを経験して身に付く「生きる力」は、やり方や技術だけではなく、自分というものを持って他者と関わることができる強さでもあるのです。

布市の資材には、子どもたちに手しごとを経験させるだけでなく、子どもたちの生き方を支えることができる可能性もあることに気付かされました。

 

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めぐる布市出口を広げるプロジェクト2025

〈お問合せ〉

認定特定非営利活動法人 森ノオト

ファクトリー事業部(担当:齋藤)

factory@morinooto.jp

 

 

【この活動は、地球環境基金の助成を受けています】

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