project -出口をひろげる-

めぐる布市・出口を広げるプロジェクト2024レポート|NPO法人 らいちょう(横浜市青葉区)

布の循環量を増やし、リユース品を活用する人を増やすために取り組む「めぐる布市」出口を広げるプロジェクトの2年目。今回ご紹介するのは、「NPO法人らいちょうKAPWA福祉作業所」さんの活用事例です。

NPO法人らいちょうは、2017年に設立され横浜市青葉区内で障がいのある方が通う福祉作業所を運営し、障害福祉サービスとして日中支援事業を行っている法人です。青葉区内に生活介護や就労継続支援B型等の3カ所の作業所を持ち、障がいのある方が充実した生活を送るためのサポートをしています。

今回取材に訪れたのは市が尾駅から徒歩15分ほどの閑静な住宅街荏田西地区にある「KAPWA福祉作業所」です。静かな住宅街の中でも、ひときわ大きな敷地にゆったりと建つ庭付きの大きな一軒家を作業所としています。

KAPWAには、20代から60代までと幅広い年齢層の障がいのある方(以下、利用者さん)が20名ほど通われていて、受注作業や余暇活動等をして過ごしているそうです。

中に入ると広々とした玄関ホールを中心に左右二つの部屋に分かれており、

左側の大きな部屋では受注作業を、右側の和室で「アート活動」が行われていました。

週に1回の「アート活動」の時間では、余暇活動として、裁縫をしたり、絵を描いたり、商品につながる作品の制作などをしているそうです。

お話を聞かせてくれたのは、KAPWAの管理者である鈴木さんと、アート活動を担当している手島さんです。

KAPWAの管理者の鈴木さん

 

アート活動をしている作業室には、いたるところに素材がたくさん置かれ、作りかけのものや、出来上がったオブジェなどが飾られていて、何かものを作りたくなるような雰囲気のお部屋です。

この日の「アート活動」に参加していたのは4名。それぞれもくもくと制作に取り掛かっていました。

アート活動担当の手島さん

何度かめぐる布市にもアート活動で使う材料を探しに買い物に来ており、そこでこの出口プロジェクトを知り、今回の応募に至ったそうです

 

 

出口プロジェクトに応募する前は、手持ちの布や古着等を素材として活用したり、100円ショップで布を購入したりしていたそうです。もっとたくさんの素材や材料があればいいなと思っていた時に、ちょうどこのプロジェクトを知り、地域とのつながりを広げるためにも、是非応募したいと思ったそうです。

 

部屋に入ると、利用者さんが作業をしている机の上には、目を惹く個性的な絵がずらりと並んでいました。

並んでいる絵を見ているだけでも楽しくなる机の上です

いろんな利用者さんが描いた絵を表紙に使い、紙の束を刺繍糸で綴じてKAPWAオリジナルのノートを手作りしているところでした。この刺繍糸は出口プロジェクトの刺繍糸を使い、いろんな色の糸で綴じているのも可愛いさのポイントになっていました。

見開きにした紙に等間隔に目打ちで穴をあけ、針と刺繍糸を通して綴じていきます。ひとつひとつ丁寧に作られていました

 

ノートの表紙に使っている紙は、普段作業所に送られてくる段ボールをリサイクルしているそうで、「段ボールを水やお湯にひたすと、するっと表面の紙が外れるんです。そのコツをつかんで紙を剥がして再利用して使っています。」と鈴木さんが教えてくれました。

どうりで、新しい紙にはない折り皺やノリの跡があり、ザラっとした肌触りの紙でした。それぞれに風合いが異なっているので、買う人も選ぶのが楽しいだろうなぁと感じます。

そんな段ボールの紙に利用者さんの個性あふれる絵が加わり、それを色とりどりの刺繍糸で綴じて、世界に1冊だけの個性豊かなノートに仕上げていました。

 

このノートは、藤が丘駅前にあるらいちょうが運営するアンテナショップ「Sari-Sari」で売られており、人気商品の一つだとか。一つ一つの工程に手間と時間をかけ、複数の手を経て丁寧に作られている素敵な商品です。

可愛くて、ついつい私が購入したノートやメモ帳。右下にある小さなメモ帳に描かれているのはなんと「うな丼」。思わずズッコケたくなるユルさです。

 

その向かい側で作業をしていたのは、ノートを刺繍糸で綴じていた若い女性の利用者さん。こちらは、スナップボタンをブルーの布にひたすら縫い付けて黙々と作業をしています。

スナップボタンを隙間なく縫いつけています

 

何を作っているのかを聞いてみると、全面にスナップボタンを縫いつけたバッグを制作中なのだとか。

布市には、たくさんの古いスナップボタンが寄付されてくるのですが、使い道があまりなく、余りがちでした。そんな話を聞き、手島さんがスナップボタンの使い道を考え、スナップを全面に縫い付けてバッグを作ったら面白そう!と思いつき、集中力のいる作業が得意な利用者さんに縫い付けをお願いしたのだそうです。これは、仕上がるのがとても楽しみな一品です。

 

隣の机で、目の前に刺繍糸が沢山入った箱を置いて、小さな布に刺繍を施していたのは、このアートの時間に制作をするのが初めてという女性の利用者さん。

鮮やかなピンク色の布に小さな刺繍枠をはめてゆっくりと丁寧に刺繍をしています。

優し気な色の刺繍糸の組み合わせと、味わいあるフォルムの並縫いがなんとも愛らしく、制作している彼女の雰囲気とぴったりでした

「できるだけ、利用者さんがやれることを生かして、そのありのままのやり方や表現を大事にしたい」と話す手島さん。

コースターを作っていた彼女は、取材中に「材料をいっぱいもらえてうれしい!」と笑顔で話してくれ、なんだかこちらもうれしい気持ちになりました

 

つくり手にとって素材が豊富にあるということは、心も浮き立ち、つくる楽しみや意欲が湧いたり、想像力を掻き立ててくれるものと改めて感じた場面でした。

 

出口プロジェクトの寄付の素材の中には、帯もありました。

どんなふうに活用しているかというと…。

利用者さんが、裂き織でつくった小さな織物をいくつか寄せあつめて青い布に縫いつけ、それをさらに帯に縫い付けて作品をつくっていました。

裂き織りとは、江戸時代の東北地方で生まれた生活の知恵で、古くなった布を裂いて紐状にし、織り物の材料として使うことで新たな用途に生かすという、昔ながらのエコロジーな技法です。

KAPWAでは、Tシャツや古着を細く裂いた布や、毛糸などを使って、裂き織りのコースターを作っているそうです。

ゆるめに織られていたコースターをいくつか組み合わせてミシンで帯に縫いつけようとしたところ、それらを制作した利用者さんが「自分がやる」と言って手縫いで縫いつけていました。縫い方もダイナミックで、途中で裏側の糸が絡まっていましたが、それがなんともいえない自由な雰囲気を醸し出して面白く、他の人には真似のできない力強くてカッコイイ縫い方でした。

この裂き織コースターを制作している方は、2024年秋に開催された「かながわ障がい者 ともいきアート展」で賞をいただいたそうです

この日も帯の作品に手をつける前は、クリスマスツリーの刺繍をしていました。糸の塊も作品のアクセントとなるような大胆な縫い方が潔く、「楽しい」と言って刺繍をしている姿がとても印象的でした。

赤い布にクリスマスツリーを刺繍。その左にある黄色い布は、古着の袖を開いたものだそうです。出口プロジェクトで素材をたくさん寄付してもらう前は、古着などにも刺繍をしていたとか

 

次に鈴木さんが引出しから出してくれたのは、オリジナリティあふれるクリスマスグッズです。

 

オリジナリティあふれるクリスマスリース

 

中身が見えるオーガンジーの布に腸詰のように詰められていたのは、ふわふわした綿のようなものや、裂き織で出る余りのカラフルな糸等です。

ふわふわした綿のようなものは、実は毛糸をほぐしたものだそうで、撚(よ)れている毛糸をほぐすのが好きという利用者さんがいたそうです。

そのほぐされて可愛くなったふわふわの毛糸を、可愛いものが大好きという別の利用者さんに渡して、オーガンジーの布に詰める作業をしてもらい、それを何にしていこうかと手島さんが一緒に考えて、利用者さんにキラキラしたスパンコールなどを縫い付けてもらい、仕上げをしたそうです。

 

こんな風にくるくる巻いた独特なクリスマスグッズは見かけたことがなく、商品が出来上がるまでの過程自体も興味深く、アイディアがユニークで素敵な1品ばかりでした。

 

作業机に目をやると、これまた中身が見えるオーガンジーにさまざまな素材が詰めた制作途中の人形が置かれていました。

この日、この人形を作った制作者は活動していませんでしたが、クリスマスグッズにほぐした毛糸を詰めていた方の作品だそうです。

制作途中の人形には、ほぐした毛糸や素材のハギレなどが詰まっています

 

手島さんは、裂き織を作る工程で最後に出る縦糸のあまりが、色とりどりとてもきれいなので捨てるのがもったいないと箱に集めて取っているそうです。捨てられてしまうであろう余りの糸たちも、こうして大切にとっておき、のちに作品の素材として息を吹き返していました。

今度は手ぬい糸がパンパンに詰まったビニール袋からたくさんの糸を取り出して「出口プロジェクトの寄付で頂いた糸が、どれも可愛いんですよ!これなんてこんな小さな木片に糸を巻いていて、とっても可愛らしくて。」と手島さんが嬉しそうに話してくれ、なんだかこちらまでほっこりと温かい気持ちになりました。

年代モノでレトロな雰囲気の絹糸やら木綿糸、使いかけの糸や、絵が描かれた小さな木片に巻いてある糸など、どれも不揃いながらも個性豊かな糸たちです。

 

布市に寄付されてくる布や手芸用品には、それぞれに物語があるようで、誰がどんなものをつくろうとしていたのだろう…と想像するのも楽しいものです

 

KAPWA福祉作業所の「アートの時間」では、めぐりめぐって手元に届いた様々な素材に対しても、愛あるまなざしを向け、利用者さん達の個性豊かな表現と共にクリエイティブな発想力を持って作品や商品といった形にしていました。

見せてもらった制作中の作品達には、どれにも小さな物語があるようで、誰にでも作れるようなものではなく、その人だからこそ作れる作品や商品がここでは作られていて、見ているとお宝を見つけた時のように、つい心がおどってしまうような感覚になりました。きっとそれは、つくる人の個性や素材の個性をも大事に考え、良さを活かそうとする柔軟な発想力と創意工夫があるからこそ生まれてきているものなのだと思います。

 

手島さんは、この時間を「利用者さんたちが楽しく、個性が形になって、ありのままの姿で表現活動をしてくれる場でありたいと思います。作品や商品などのカタチになってもならなくても、その人なりの表現ができていれば良いなと思っているんです。今後も寄付して頂いた素材を活用して、利用者さんたちの個性あふれる作品を楽しみながら生み出していきたいです」と話してくれました。

 

管理者の鈴木さんは、「想像以上にたくさんの素材を提供していただき、利用者さんもワクワク感が増して楽しくアートの時間で制作できています。アートを通してそれぞれが才能を開花して、美術展で賞をもらったり、とてもいい経験ができたと思います。商品になったり、ならなくてもそれが喜びにつながっていると感じています。

最近は、イベントがあった時などに商品を持って行くなど、活動を知ってもらう機会が増えてきているので、地域の人にも知ってもらえればと思っています。」と話してくれました。

 

 

KAPWA福祉作業所のアートの時間での取り組みは、目の前にあるものを丁寧に見つめ、それぞれの‘良さ’や‘好き’といった個性をどうやったらうまく活かせるかと、創意工夫と手間を惜しまないモノづくりをしていました。

布市からめぐっていった素材たちは、これからもそうやってステキなものへと形を変えて、めぐっていくのでしょう。

 

 

(最後のおまけ)

KAPWA福祉作業所と同じNPO法人らいちょうが運営している「ARAW福祉作業所」でも、アートの時間があるそうです。

今回取材には行っていませんが、出口プロジェクトの素材を使い、織物等をして商品の制作をしているそうなので少しだけ写真でご紹介します。

 

……

こちらは出口プロジェクトの毛糸を使い織物を制作しています。木の織機は、木工の先生の手作りだとか

 

アクリル絵具で紙ストローを塗るのが好きという利用者さんが塗ったカラフルなストローを毛糸で紐通し。ストローを絵具で塗るのが好きな利用者さんは、画用紙には絵具を塗らないそうですが、ストローなら塗るようです。

「好きを貫く」

紙に書いて貼っておきたいような言葉です

…………………………………………………..

NPO法人らいちょう 福祉作業所KAPWA

 

めぐる布市出口を広げるプロジェクト2024

〈お問合せ〉

認定特定非営利活動法人 森ノオト

ファクトリー事業部(担当:齋藤)

factory@morinooto.jp

 

【この活動は、地球環境基金の助成を受けています】



Share on