project -出口をひろげる-

めぐる布市・出口を広げるプロジェクト2024レポート 自然とつながるアート教室(福岡県)

布の循環量を増やし、リユース品を活用する人を増やすために取り組む「めぐる布市」出口を広げるプロジェクトの2年目。今回ご紹介するのは、「自然とつながるアート教室」さんの活用事例です。

自然とつながるアート教室のみなさん

 

自然とつながるアート教室は、八田麻理子さんが中心となって、2009年に福岡市早良区の西新公民館を拠点に始まりました。身近な自然を知ること、自然をテーマにした作品をつくることで自分を自由に表すこと、地域の親子が助け合って育ち合うことを目指し、月に1度、幼児から小学生まで12人の子どもたちと親が活動しています。

 

「めぐる布市」と「自然とつながるアート教室」。横浜市と福岡市、地理的には遠く離れた二つの活動をつないだのは、福岡市に引っ越すまで森ノオトでライターをしていた坂本カオルさんでした。カオルさんは、めぐる布市がスタートする前段階の、寄付布でアップサイクルを目指すプロジェクトの立ち上げのころにメンバーとして参画していました。今は福岡市で子育てし、2年前から息子さんと一緒に自然とつながるアート教室での活動を楽しんでいます。

 

Facebookで、めぐる布市の出口プロジェクトを目にしたカオルさん。自然をテーマにした福岡の活動と、森ノオトとの親和性をもともと感じていたそうで、今回の出口プロジェクトを麻理子さんに紹介します。アート教室の3人と布市スタッフとで、オンラインで顔合わせと打ち合わせをすることに。めぐる布市の事業内容や出口プロジェクトで目指すことを知り、どんな資材があるのか画面越しに見せてもらったそうです。

 

届いた資材から制作に使う素材を選ぶ子どもたち

 

アート教室は、“自然とつながる”をコンセプトに掲げている活動ですから、普段から自然に負荷をかけすぎるような材料は避けているそうです。次の世代によいものを使う。そうでなければ、思いのあるものを使う。それを大事にしています。そして、そのものがどこからきたか、ということを子どもたちや保護者に伝えていると言います。

 

出口プロジェクトで提供してもらう資材について、打ち合わせでのやりとりの経緯を麻理子さんが話してくれました。

 

「学んだことが多くありました。布であれば絹や綿、ボタンだと貝殻ボタンがいいと、最初は好き放題言っていたんです。実際は、寄付していただくもので化繊の生地やプラスチックのボタンが多いのだと聞きました。それが現実なら、現実に添いたいと思いました。ペラペラっとした化繊の生地もたくさん入れてほしい。それも含めて子どもたちに伝えます、と話しました」と麻理子さん。

 

「どんな素材であっても、テーマと目的さえしっかりとあれば、子どもたちはキャッチしてくれる。子どもたちの感性をもって素敵に仕上げる自信がありました。大量生産大量廃棄が当たり前な時代の中で、思いをもって思いのある人にものを届ける。それって今、一番必要なことじゃないかと。布市の活動のことをじゅうぶんに受け止めました」と、麻理子さんたちはプロジェクトに参加することに。

 

そうして届いたのは、布は無地もあれば、さまざまな柄物も。テロテロ素材もあればウールも。大判にハギレ、レースカーテン生地に、ひも、バイアステープ、毛糸に糸各種、ボタンなどなど…。その数段ボール4箱分。受け取ったメンバーもびっくりするほどの、潤沢な資材だったそうです。

 

さて、どんなふうにめぐる布市の資材は使われたのでしょう。

 

目指すは、毎年参加している公民館文化祭での作品展示です。インドネシア・ジャワ島の伝統楽器のガムランを「音であらわそう」をテーマにしました。地域の障がい者自立支援施設で、活動の一つとしてガムランを取り入れているところがあり、夏にアート教室の課外活動として聴きに出かけたのです。このアート教室、絵を描くということだけでなく、音楽を聴きに行ったり、ダンスをしたり、地域の自然や伝統行事にふれたりと、時には公民館を離れて外に出る活動を取り入れています。

 

ガムランを聴きに行き、演奏体験もさせてもらったのだそう

 

そんなアート教室らしい、音を聴いて自分が感じたことを表そう、という創作の素材になったのが、出口プロジェクトで受け取った資材でした。

 

ふんだんにある素材、大きさも色も形も柄も、手触りだってさまざま。

それらをどう見せるか。麻理子さんは子どもたちへの見せ方にこだわりました。

広いホールに、白い長い布を天の川の見立てて斜めに広げ、その上に、テロテロの布や糸、ボタンなど、同じ仲間同士で山のようにしたのだそう。

 

みんなの作品を一つの布に合わせていきます

 

子どもたちや保護者の方たちに、この布がどこから来たのか説明してから制作は始まりました。子どもたちは、たくさんの中から、自分がこれ!と思うものを選んでいきます。ボンドは使わないことに決めていたので、初めて針と糸にさわったという年長児も。小さい布にもっと小さい布を縫い付けたり、紐をくにゃくにゃにしてかたちづくったり。布を包むという表現をする子も。

当日、ガムランの音楽をバックミュージックとして聴きながら、やりたりものに向かって集中して取り組んでいたそうです。

 

大きな布に思い切ってハサミを入れる

 

「布を包むという動作が加わり、描くことでは表せない立体の表現方法も楽しんでいました。遠慮することなく、ざくざく切ったり、逆に大きなまま使ったり、制限をかけずに作品をつくっていたように見えました。また、大人たちには懐かしい柄のものも、子どもたちには新鮮に見えているようでした」と保護者代表の大坂奈津美さん。

 

作品は公民館文化祭で壁に飾られ、大きな布の中にみんなの作品が一つになり、ダイナミックに表現されました。

11月初旬におこなわれた公民館文化祭で展示。保護者の友人の方からは「アートは絵だけでないんだね」と言葉をかけられたそう

 

使いきれなかった資材は、別のワークショップに使ったり、子どもたちが欲しい素材を持ち帰ることに。ある女の子は「これでおひめさまになるの」と、うれしそうにポリエステルのレースのカーテンを選んだのだそう。また、“気持ちのこもったお福分け”として、アート教室の保護者の方がつないでくれたプロジェクトのものだと説明して、公民館スタッフの方に託しました。洋裁クラブの方々に持ち帰ってもらうなどして、すべて分け切ったそうです。

 

余った資材で後日、布のリースを制作

 

めぐる布市と福岡の活動をつないだ坂本カオルさんは、こう話します。「リユースの取り組みを子どもたちはすんなり受け入れてくれて、お母さんたちは感心して聞いてくれたことが印象的でした。私たち子育て世代も、まだまだ大量消費社会を生きていて、使いきれないものと格闘しているのだと思います。子どもだけでなく、親にもメッセージが届いたと思うとうれしかったです」

 

「めぐる布市さんと出会えて本当によかった」と話すのは麻理子さん。「このような事業を続けてこられたことに励まされますし、続けていける仕組みをつくっていらっしゃる。福岡の私たちにも届けてくださり、実際の作業は大変なものだと思います。こうした振り返りのインタビューの機会までつくってくださり、そういった点でも勉強になります」

 

「子どもたちは、今はすべて理解できていなかったとしても、大人になって楽しかった記憶とともに、わかってくれるはずです。大事な人が大事にしてきたものを知る、ものを大事にする。そんなふうになってくれたらうれしいです。そして、布市のプロジェクトがこれからも続いていくことを願っています」(麻理子さん)

 

めぐる布市には、全国のあちこちから大切にしてきたという寄付品が届きます。今回の出口プロジェクトでは、めぐりめぐって、工房からは遠く離れた地域にもそれらを届けることができました。モノだけではなく、この先の社会へのメッセージまで包みこんで分かち合えたことを感じた取り組みでした。

 

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めぐる布市出口を広げるプロジェクト2024

 

〈お問合せ〉

認定特定非営利活動法人 森ノオト

ファクトリー事業部(担当:齋藤)

factory@morinooto.jp

 

【この活動は、地球環境基金の助成を受けています】

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