布の循環量を増やし、リユース品を活用する人を増やすために始まった「めぐる布市」出口を広げるプロジェクト。第一号モニターに決まったのは町田市金井にある「クラフト工房 La Mano」さん。緑に囲まれた自然豊かな環境で、心やからだに障がいをもつ40人のメンバーが中心となって、天然素材を使った染めや手織り、刺繍やアート作品を作っている染織工房です。
昨年30周年を迎えたLa Manoさん。はじまりは1992年に障がいを持った子どもたちのお母さんが、養護学校を卒業した後の行き場として、私設ではじめた小さな造形教室でした。現在メンバーは40名に増え、20名のスタッフと地域のボランティアの皆さんの支えとともに、色とりどりの素敵な作品が日々生まれています。
手しごとを担っているメンバーは自閉症、ダウン症、発達障害、身体障害、精神障害などの障がいをもつ方々。それぞれが得意とする技術や表現、感性で、日々コツコツと丁寧に手しごとに励んでいます。スタッフの方々はメンバーの「好き」という気持ちやこだわりを尊重し、優しく見守りながら手しごとを支えています。地域の方々は、染料になる植物や野菜を栽培したり、里山の手入れをしたり、縫製作業を手伝ったり…とたくさんの方々の手がLa Manoさんの活動を支えています。
森ノオトで開催する月に一度の共同購入「いいかも市」とは以前からつながりのあったLa Manoさん。出口を広げるプロジェクトの案内をさせてもらったところ、是非活用させていただきたいとご連絡をいただき、まずは打ち合わせのために布市の工房までLa Manoスタッフのお二人に来ていただきました。
綿や麻など染められる天然繊維であること、販売する商品として扱えるようにある程度の量が揃っていること、そして染織の制作過程で使える素材であること。いろいろな素材を確認していただき、染めに使えそうな白やきなりの綿生地、制作過程で使えそうなシーチング生地やフェルトなどを寄付させていただきました。
シーチング生地は染めの制作過程で使われると聞き、実際にどのように活用されているのか見てみたい!ということで、木の葉が色づく11月の終わりにLa Manoさんの工房を訪ねました。町田市金井の住宅街の一角に佇む工房は、里山のふもとに建つ築100年の古民家です。
早速あのシーチングが使われているという靴下の絞り染めの工程を見せてもらうことに。裂いて小さくカットされたシーチングは「当て布」として活用されていました。「当て布」とは、絞り糸を縫う際に布に当てて一緒に縫い、布を絞る際に玉止めが抜けたり、布が破けてしまうのを防ぐためのもの。絞り糸をほどく際にも生地を誤って切ってしまうのを防いだり、糸を見つけやすくするというお役目もあり、実は絞り染めにはなくてはならない存在なのです。
絞り染めにはいろいろな模様があって、模様によって絞り方もさまざま。最初の工程は模様となる部分に穴の空いた型紙を使って印をつける「点打ち」です。その後その点に合わせてなみ縫いをします。縫い終えたら、糸を引いて絞る工程へ。縫ったところをギュッと引っ張り、玉止めをします。ヒダを揃えて更に引っ張り、玉の下に玉を作って、それを何度も繰り返しながらこれ以上引っ張れなくなるまで何度も絞ります。そして最後に「巻き上げ」を施したら、染めの工程へ。
主な染色方法は「藍染め」と「草木染め」で、それぞれ工程が異なります。最初に案内してもらったのは母屋の裏庭にある藍染の染め場。藍甕が並んでいます。ちょうど染め担当のメンバーが靴下を染めているところでした。
まずは空気に触れないよう藍甕の中で十分に染み込ませるために、5分くらいしっかり揉んで漬け込みます。その後しっかり水でゆすいで絞って干す。この工程を何度も繰り返すことで、深みのある藍色になるそうです。
お次は「草木染め」の染め場へ。ここでは絞り終わった靴下が大きな鍋で染られている最中でした。染料の茜を煮出して作られた染液をムラにならないよう布を動かしながら染め上げていきます。
La Manoさんで使われている染料はすべて天然のもので、茜をはじめ、藍草、玉ねぎ、石榴(ざくろ)や藤などさまざまな植物から色鮮やかな染料が生まれます。庭で採れた栗のイガやマリーゴールドを活用することも。なんとアボカドの皮も染料になるそうです。
色素を繊維に定着させるために、媒染剤を使用します。媒染剤になるのは鉄やアルミなどの水溶性の金属塩。同じ染液でも異なる媒染剤を使うことで、全く違う色に染まるのです!媒染と染料を繰り返すことで、色を定着させていきます。
最初に煮出して作られた染液を1番液というそうで、再度水を入れて煮出した液を2番液、同じ容量で3、4、5…番液が作られていき、濃度が薄くなる分それぞれ異なる色に仕上がるとのこと。同じ染料でも様々な色が生まれる草木染めの面白さにすっかり魅了されたのでした。
母屋の隣にある織り部屋「セグンダ」も見学させてもらいました。ここで使われている糸も工房で染められたもの。時には綿の実を種と繊維に分け、手で紡いだ糸を染めてから織ることも!この日も色鮮やかで美しい模様の作品がメンバーの手によって丁寧に織られていました。細かい模様や独自の配色でメンバーの個性とセンスが光ります。
実は織るまでの工程が大変だそうで、たて糸を張るための準備からはじまり、櫛の目になっている板やワイヤーの小さな穴に一本一本糸を通していくという細かい作業を経て、ようやく織りに進めるのだとか。熱心に仕事に取り組むメンバーの姿にとても胸が熱くなりました。
La Manoさんの手しごとは、時間も労力も段違いにかかります。けれど、心を込めて丁寧に作られた優しくてあたたかい作品と、いきいきと働くメンバーや寄り添うスタッフの姿を見ていたら、「手しごと」だからこそ生まれるものはやはりあるのだなぁとしみじみ思うのです。
一通り見学させてもらったあと、色選びに悩みに悩んでマリーゴルド染めと玉ねぎ染めのシルクの靴下を2足購入させてもらいました。シルクの靴下はなめらかな肌触りで、ムレや乾燥を防ぎ、夏は涼しく冬は暖かいという優れもの。生み出される過程と作っている人たちの顔がわかるからこそ、その靴下たちがとても愛おしく、履いた日の夜は優しく手洗いしてしまうほど、大事なひとしなになりました。
La Manoとはスペイン語で「手」を意味することばだそうです。「つくり手」だけでなく、「支える手」や「つなぐ手」、そして「つかう手」、いろいろなかたちで関わる人たちが幸せになる、というのがLa Manoさんの目指すものづくり。その「手」のひとつにめぐる布市がなれたことが、とても幸せなことだと感じた訪問でした。
………….
★めぐる布市出口を広げるプロジェクト★
【詳細はこちら】
https://applique.morinooto.jp/works/hirogeruproject_2.html
【映像はこちら】
https://youtu.be/mhZEpyQ3OmQ
【これまでに取材した記事はこちら】
▶みんなが幸せであるために 「ままリズム ぱぱリズム」(横浜市青葉区)
https://applique.morinooto.jp/project/mamapapa.html
▶みんなが平等に、好きなものを作ることができる環境を 「荏田東第一小学校 家庭科クラブ」(横浜市都筑区)
https://applique.morinooto.jp/project/edahigashi.html